宠文网 > 吾輩は猫である >  十一 - 24

十一 - 24

书籍名:《吾輩は猫である》    作者:夏目漱石
字体大小:超大 | | 中大 | | 中小 | 超小
上一章目录下一章





「これでもいいですか」とまた一枚つきつける。


「それもいいですね。是非周旋して下さい」


「どれをです」


「どれでもいいです」


「君なかなか多情ですね。先生、これは博士の姪(めい)です」


「そうか」


「この方は性質が極(ごく)いいです。年も若いです。これで十七です。――これなら持参金が千円あります。――こっちのは知事の娘です」と一人で弁じ立てる。


「それをみんな貰う訳にゃいかないでしょうか」


「みんなですか、それはあまり慾張りたい。君一夫多妻主義(いっぷたさいしゅぎ)ですか」


「多妻主義じゃないですが、肉食論者(にくしょくろんしゃ)です」


「何でもいいから、そんなものは早くしまったら、よかろう」と主人は叱りつけるように言い放ったので、三平君は


「それじゃ、どれも貰わんですね」と念を押しながら、写真を一枚一枚にポッケットへ収めた。


「何だいそのビールは」


「お見やげでござります。前祝(まえいわい)に角(かど)の酒屋で買うて来ました。一つ飲んで下さい」


主人は手を拍(う)って下女を呼んで栓(せん)を抜かせる。主人、迷亭、独仙、寒月、東風の五君は恭(うやうや)しくコップを捧げて、三平君の艶福(えんぷく)を祝した。三平君は大(おおい)に愉快な様子で


「ここにいる諸君を披露会に招待しますが、みんな出てくれますか、出てくれるでしょうね」と云う。


「おれはいやだ」と主人はすぐ答える。


「なぜですか。私の一生に一度の大礼(たいれい)ですばい。出てくんなさらんか。少し不人情のごたるな」


「不人情じゃないが、おれは出ないよ」


「着物がないですか。羽織と袴(はかま)くらいどうでもしますたい。ちと人中(ひとなか)へも出るがよかたい先生。有名な人に紹介して上げます」


「真平(まっぴら)ご免(めん)だ」


「胃病が癒(なお)りますばい」


「癒らんでも差支(さしつか)えない」


「そげん頑固張(がんこば)りなさるならやむを得ません。あなたはどうです来てくれますか」


「僕かね、是非行くよ。出来るなら媒酌人(ばいしゃくにん)たるの栄を得たいくらいのものだ。シャンパンの三々九度や春の宵。――なに仲人(なこうど)は鈴木の藤(とう)さんだって?なるほどそこいらだろうと思った。これは残念だが仕方がない。仲人が二人出来ても多過ぎるだろう、ただの人間としてまさに出席するよ」


「あなたはどうです」


「僕ですか、一竿風月(いっかんのふうげつ)閑生計(かんせいけい)、人釣(ひとはつりす)白蘋紅蓼間(はくひんこうりょうのかん)」


「何ですかそれは、唐詩選ですか」


「何だかわからんです」


「わからんですか、困りますな。寒月君は出てくれるでしょうね。今までの関係もあるから」


「きっと出る事にします、僕の作った曲を楽隊が奏するのを、きき落すのは残念ですからね」


「そうですとも。君はどうです東風君」


「そうですね。出て御両人(ごりょうにん)の前で新体詩を朗読したいです」


「そりゃ愉快だ。先生私は生れてから、こんな愉快な事はないです。だからもう一杯ビールを飲みます」と自分で買って来たビールを一人でぐいぐい飲んで真赤(まっか)になった。


短かい秋の日はようやく暮れて、巻煙草の死骸(しがい)が算を乱す火鉢のなかを見れば火はとくの昔に消えている。さすが呑気(のんき)の連中も少しく興が尽きたと見えて、「大分(だいぶ)遅くなった。もう帰ろうか」とまず独仙君が立ち上がる。つづいて「僕も帰る」と口々に玄関に出る。寄席(よせ)がはねたあとのように座敷は淋しくなった。


主人は夕飯(ゆうはん)をすまして書斎に入る。妻君は肌寒(はださむ)の襦袢(じゅばん)の襟(えり)をかき合せて、洗(あら)い晒(ざら)しの不断着を縫う。小供は枕を並べて寝る。下女は湯に行った。

上一章目录下一章
本站所有书籍来自会员自由发布,本站只负责整理,均不承担任何法律责任,如有侵权或违规等行为请联系我们。