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十一 - 10

书籍名:《吾輩は猫である》    作者:夏目漱石
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「夜通しあるいていたようなものだね」と東風君が気の毒そうに云うと「やっと上がった。やれやれ長い道中双六(どうちゅうすごろく)だ」と迷亭君はほっと一と息ついた。


「これからが聞きどころですよ。今までは単に序幕です」


「まだあるのかい。こいつは容易な事じゃない。たいていのものは君に逢っちゃ根気負けをするね」


「根気はとにかく、ここでやめちゃ仏作って魂入れずと一般ですから、もう少し話します」


「話すのは無論随意さ。聞く事は聞くよ」


「どうです苦沙弥先生も御聞きになっては。もうヴァイオリンは買ってしまいましたよ。ええ先生」


「こん度はヴァイオリンを売るところかい。売るところなんか聞かなくってもいい」


「まだ売るどこじゃありません」


「そんならなお聞かなくてもいい」


「どうも困るな、東風君、君だけだね、熱心に聞いてくれるのは。少し張合が抜けるがまあ仕方がない、ざっと話してしまおう」


「ざっとでなくてもいいから緩(ゆっ)くり話したまえ。大変面白い」


「ヴァイオリンはようやくの思で手に入れたが、まず第一に困ったのは置き所だね。僕の所へは大分(だいぶ)人が遊びにくるから滅多(めった)な所へぶらさげたり、立て懸けたりするとすぐ露見してしまう。穴を掘って埋めちゃ掘り出すのが面倒だろう」


「そうさ、天井裏へでも隠したかい」と東風君は気楽な事を云う。


「天井はないさ。百姓家(ひゃくしょうや)だもの」


「そりゃ困ったろう。どこへ入れたい」


「どこへ入れたと思う」


「わからないね。戸袋のなかか」


「いいえ」


「夜具にくるんで戸棚へしまったか」


「いいえ」


東風君と寒月君はヴァイオリンの隠(かく)れ家(が)についてかくのごとく問答をしているうちに、主人と迷亭君も何かしきりに話している。


「こりゃ何と読むのだい」と主人が聞く。


「どれ」


「この二行さ」


「何だって?Quidaliudestmuliernisiamicitiinimica[#「amiciti」は底本では「amiticiae」]……こりゃ君羅甸語(ラテンご)じゃないか」


「羅甸語は分ってるが、何と読むのだい」


「だって君は平生羅甸語が読めると云ってるじゃないか」と迷亭君も危険だと見て取って、ちょっと逃げた。


「無論読めるさ。読める事は読めるが、こりゃ何だい」


「読める事は読めるが、こりゃ何だは手ひどいね」


「何でもいいからちょっと英語に訳して見ろ」


「見ろは烈しいね。まるで従卒のようだね」


「従卒でもいいから何だ」

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