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十 - 11

书籍名:《吾輩は猫である》    作者:夏目漱石
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「へえ、それで雪江さんは馬鹿竹になる気なの」


「やだわ、馬鹿竹だなんて。そんなものになりたくはないわ。金田の富子さんなんぞは失敬だって大変怒(おこ)ってよ」


「金田の富子さんて、あの向横町(むこうよこちょう)の?」


「ええ、あのハイカラさんよ」


「あの人も雪江さんの学校へ行くの?」


「いいえ、ただ婦人会だから傍聴に来たの。本当にハイカラね。どうも驚ろいちまうわ」


「でも大変いい器量だって云うじゃありませんか」


「並ですわ。御自慢ほどじゃありませんよ。あんなに御化粧をすればたいていの人はよく見えるわ」


「それじゃ雪江さんなんぞはそのかたのように御化粧をすれば金田さんの倍くらい美しくなるでしょう」


「あらいやだ。よくってよ。知らないわ。だけど、あの方(かた)は全くつくり過ぎるのね。なんぼ御金があったって――」


「つくり過ぎても御金のある方がいいじゃありませんか」


「それもそうだけれども――あの方(かた)こそ、少し馬鹿竹になった方がいいでしょう。無暗(むやみ)に威張るんですもの。この間もなんとか云う詩人が新体詩集を捧げたって、みんなに吹聴(ふいちょう)しているんですもの」


「東風さんでしょう」


「あら、あの方が捧げたの、よっぽど物数奇(ものずき)ね」


「でも東風さんは大変真面目なんですよ。自分じゃ、あんな事をするのが当前(あたりまえ)だとまで思ってるんですもの」


「そんな人があるから、いけないんですよ。――それからまだ面白い事があるの。此間(こないだ)だれか、あの方の所(とこ)へ艶書(えんしょ)を送ったものがあるんだって」


「おや、いやらしい。誰なの、そんな事をしたのは」


「誰だかわからないんだって」


「名前はないの?」


「名前はちゃんと書いてあるんだけれども聞いた事もない人だって、そうしてそれが長い長い一間ばかりもある手紙でね。いろいろな妙な事がかいてあるんですとさ。私(わたし)があなたを恋(おも)っているのは、ちょうど宗教家が神にあこがれているようなものだの、あなたのためならば祭壇に供える小羊となって屠(ほふ)られるのが無上の名誉であるの、心臓の形(かた)ちが三角で、三角の中心にキューピッドの矢が立って、吹き矢なら大当りであるの……」


「そりゃ真面目なの?」


「真面目なんですとさ。現にわたしの御友達のうちでその手紙を見たものが三人あるんですもの」


「いやな人ね、そんなものを見せびらかして。あの方は寒月さんのとこへ御嫁に行くつもりなんだから、そんな事が世間へ知れちゃ困るでしょうにね」


「困るどころですか大得意よ。こんだ寒月さんが来たら、知らして上げたらいいでしょう。寒月さんはまるで御存じないんでしょう」

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