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四 - 5

书籍名:《吾輩は猫である》    作者:夏目漱石
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「なるほど似ているな」と主人が、さも感心したらしく云うと「何がです」と細君は見向きもしない。


「何だって、御前の頭にゃ大きな禿があるぜ。知ってるか」


「ええ」と細君は依然として仕事の手をやめずに答える。別段露見を恐れた様子もない。超然たる模範妻君である。


「嫁にくるときからあるのか、結婚後新たに出来たのか」と主人が聞く。もし嫁にくる前から禿げているなら欺(だま)されたのであると口へは出さないが心の中(うち)で思う。


「いつ出来たんだか覚えちゃいませんわ、禿なんざどうだって宜(い)いじゃありませんか」と大(おおい)に悟ったものである。


「どうだって宜いって、自分の頭じゃないか」と主人は少々怒気を帯びている。


「自分の頭だから、どうだって宜(い)いんだわ」と云ったが、さすが少しは気になると見えて、右の手を頭に乗せて、くるくる禿を撫(な)でて見る。「おや大分(だいぶ)大きくなった事、こんなじゃ無いと思っていた」と言ったところをもって見ると、年に合わして禿があまり大き過ぎると云う事をようやく自覚したらしい。


「女は髷(まげ)に結(ゆ)うと、ここが釣れますから誰でも禿げるんですわ」と少しく弁護しだす。


「そんな速度で、みんな禿げたら、四十くらいになれば、から薬缶(やかん)ばかり出来なければならん。そりゃ病気に違いない。伝染するかも知れん、今のうち早く甘木さんに見て貰え」と主人はしきりに自分の頭を撫(な)で廻して見る。


「そんなに人の事をおっしゃるが、あなただって鼻の孔(あな)へ白髪(しらが)が生(は)えてるじゃありませんか。禿が伝染するなら白髪だって伝染しますわ」と細君少々ぷりぷりする。

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